幸せ10題
10 惚れてしまったらもう溺れて沈むだけ


突発的に作られた
オネエ口調キタロー女体化綾時の小話2つ。
イロモノ注意












彼は、自分はあめふらしなんだ、と言って笑った。

「君って案外ロマンチストなんだね」
そう言うと、整った眉を顰め、不服だとばかりに頬を膨らませて目を逸らす。子供っぽいその仕草に思わず笑みを零すと、更に不機嫌そうに目を伏せられた。
「案外じゃないわ。ロマンチストなの」
「……はあ」
「それでもってね、本当に雨を降らす事が出来るのよ」
嘘じゃないんだから、と一人ごちると、ほっそりとした指先で、ぴん、と額を弾かれた。

そんな風にじゃれ合ったあの日から、どの位時が流れたのか。
見上げた灰色の空から、冷たい水が降り注ぐ。
暗く立ち込めた雲の色は、彼の目の色によく似ていた。
(もしかしたら、君は今、泣いてるのかな)
小降りでもなく、大降りでもなく、ただしとしとと降り続く雨は、未だ止まない。
(そんなに泣いたら、溺れちゃうよ)
そう呟くと、不意に視界が膜を張ったように歪む。
「ねえ、泣かないで」
か細い声で、呻く様に声を捻り出すと、冷たい雫が頬を伝い零れ落ちた。



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もう12月も半ばだと言うのに、まだ雪は降らない。
毎日毎日雨ばかり降っていて、まったく気が滅入ってしまいそうだ。
格子窓から見える空は、陰鬱で重たい灰色で、冬特有の澄んだ青空が無性に恋しい。
「…雨なんて、降らなくていいのに」
何時だったか、彼女に自分はあめふらしだと、冗談めかして零した事があった。と言っても自分には雨を降らせることは出来ても、止ませる事は出来ない、ただの雨男だけれど。
ロマンチストなんだね、と丸い青い目を更に丸くしていたその顔を、よく覚えている。
「自分じゃリアリストのつもりだったんだけどなあ」
口の端を微かに吊り上げて、呟いた。彼女がそう言うのならば、ロマンチストにでも何にでもなりたかったのだ。望むなら、地獄の釜の底までだってエスコートしてみせるのに。
そう言えば、きっと彼女は悲しげに眉を寄せて目を逸らすだろう。自分が共に往く事を、今の彼女は善しとしない。きっと何の躊躇いも無く、自分を殺して生きろと言うのだろう。
「…酷いのに引っかかったもんだ」
それがどれだけ大きな傷を遺すのかを知っていて、何の衒いも無い好意の言葉を紡いだその唇で、この上なく甘く、残酷な望みを語るのだ。




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どうしてこうなった…

2009/9/1